DNA RNA の受託合成、プロテオーム受託解析、ペプチド抗体作製
 バイオ研究を支援する

Home nanoLC-MS/MS
による
タンパク質解析
相互作用
タンパク質同定
N末端アミノ酸
配列解析
テクニカル
サポート

免疫沈降法 (具体的なプロトコール)              


ここでは、FLAGタグを付けたタンパク質X の安定発現細胞株を用いた実験方法をご紹介します。


1.細胞の破砕と分画

  1) 回収した細胞(FLAGタグ付きXを発現させた細胞、及び コントロール用に FLAGタグのみを発現させた細胞、
    15 cm dish、各2-4枚)を SHE緩衝液(*a)で一度洗浄し、遠心してペレットにします。
      *a SHE緩衝液組成
          10 mM HEPES (pH7.5) / 210 mM mannitol, 70 mM sucrose, 1 mM EDTA, 1 mM EGTA, 0.15 mM spermine,
          0.75 mM spermidine


  2) 1)のペレットに SHE緩衝液を 3-4 mL 加え、ポッター型ホモジナイザーを用いて細胞を破砕します。
    (ストローク数 : 10-20回程度)


  3) 破砕した細胞を 遠心 (3,000 x g 、10分間) し、上清(粗細胞質画分)とペレット(粗核画分)に分けます。


  4) 粗核画分のペレットを 1回洗浄(SHE緩衝液を加えて再懸濁、遠心し、上清を除去)した後、NE緩衝液(*b)
    3-4 mL 加え、ポッター型ホモジナイザーか超音波破砕機を用いて再懸濁させ、氷上で 10分間置いた後
    10,000 x g 以上で 15分間 遠心し、上清を回収します。
    粗細胞質画分(3)の上清)も、同様に、10,000 x g 以上で15分間 遠心し、上清を回収します。
        *b NE緩衝液組成
          50 mM HEPES (pH7.5) / 0.35 M NaCl, 0.1 % NP-40, Protease Inhibitor cocktail


  5) 4)で回収した細胞エキストラクト(核、細胞質)に、それぞれ RNase I (10 mg/mL)、 DNase I
    (10 mg/mL)、Benzonase (50 U/mL) を加え、タンパク質低吸着性フィルター(Φ0.45 μm)で濾過します。

 
 

2.細胞エキストラクトと抗体ビーズのインキュベーション

  予め、1.5 mL チューブに抗体ビーズ(ここでは Sigma の ANTI-FLAG-M2 agarose 50 uL)を分注しておき、
  1.で準備した細胞エキストラクト(核、細胞質)を それぞれ 1-1.5 mL 加え、ローテーターを用いて、
  4 ℃で 3-4 時間インキュベーションします。(オーバーナイトでのインキュベーションは避けます。)


3.抗体ビーズの洗浄

  1) インキュベーション後、遠心(1,000 xg、2 分間)して 上清を除き、0.15 M NaCl 洗浄緩衝液(*c)を加え、
    洗浄(チューブを 3-4 回インバートした後、遠心(1,000 xg、2 分間)し、上清を除去)します。
        *c 0.15 M NaCl 洗浄緩衝液組成
          50 mM HEPES (pH7.5) / 0.15 M NaCl, 0.1 % NP-40


  2) 0.3 M NaCl 洗浄緩衝液(*d)を加えて、1)と同様に洗浄します。
        *d 0.3 M NaCl 洗浄緩衝液組成
          50 mM HEPES (pH7.5) / 0.3 M NaCl, 0.1 % NP-40


  3) 0.3 M NaCl 洗浄緩衝液を加え、ローテーターを用いて 4 ℃ で 10 分間インキュベーションします。


  4) インキュベーション後、遠心(1,000 xg、2 分間)して 上清を除き、PBSを加えて、1)と同様に洗浄します。   

  5) 上清を除去後、高速遠心し、十分に上清を除きます。


4.溶出、SDS-PAGE

  抗原ペプチド(ここでは FLAGペプチド (500 ug/mL in HEPES buffer)を 60 uL)を加え、室温で 10 分間
  インキュベーション後、高速で遠心し、上清を回収します。
  抗体ビーズの混入を避けるため、回収した溶出液を、再度、高速遠心して上清を回収し、SDS-PAGEを行い、
  コントロールとの比較により、タンパク質X の相互作用タンパク質のバンドを確認します。
  



免疫沈降のコツ


<細胞エキストラクトの調製>

 ●細胞の破砕と分画
  細胞や臓器の破砕用緩衝液は、等張で 膜を保護する組成のものを使用します。具体的なプロトコール(上記)で
  示した SHE緩衝液には、マイナスにチャージした膜表面を安定化し、核やミトコンドリアを保護する為に、ポリ
  アミンが含まれています。
  また、微量にしか存在しない相互作用タンパク質を同定する為には、total cell lysate を用いるよりも、粗分画
  したエキストラクト(細胞質、核、ミトコンドリア画分など)を用いた方がクリアな結果が期待できます。

 ●DNase、RNase の使用
  RNA結合タンパク質(ribosomal protein、RNAスプライシング因子など)や、DNA結合タンパク質(Ku70、
  Ku80、DNA PKcs など)は、RNA や DNA の存在によって非特異的に抗体ビーズに吸着します。
  それを防ぐために、細胞エキストラクトの調製段階で、DNase、RNase を添加することをお勧めします。
 

 ●タンパク質低吸着性フィルターの使用
  細胞エキストラクト調製の過程でミセル化した膜や、混在する細胞の破片も、非特異的に抗体ビーズに吸着し、
  免疫沈降に影響を及ぼすことから、それらを除去する為に、タンパク質低吸着性フィルター(≦Φ0.45 μm)
  による濾過をお勧めします。

  

<インキュベーション>

 ●インキュベーション時間
  抗原と抗体の結合は早くて強い為、数時間のインキュベーションで充分結合します。非特異的な吸着を避ける
  ために、インキュベーション時間は、長くても「4時間以内」にすることをお勧めします。


<抗体ビーズの洗浄>

 ●塩、界面活性剤の使用
  生理的に重要な「相互作用タンパク質」は、タンパク質同士が立体的に密着しています。
  その為、外界の溶媒の影響を受けにくく、0.6 M の NaCl を含む洗浄液で洗浄しても外れないことが多いので、
  非特異的に吸着しているタンパク質を洗い流すために、0.3-0.5 M NaCl、0.1-0.5 % 界面活性剤を含む洗浄液で
  十分洗浄することをお勧めします。

 ●緩衝液の変更
  塩や界面活性剤の組成だけではなく、緩衝液の変更によっても洗浄効果が期待できます。
  例えば、HEPES から リン酸緩衝液、Tris-HCl から リン酸緩衝液へ変更することで、洗浄効果が上がります。


<溶出 とSDS-PAGE>

 ●溶出液の濃度
  液量を増やさずに、目的の相互作用タンパク質を十分に溶出させるために、溶出液の濃度(FLAGタグの場合、 
  FLAGペプチドの濃度)を、マニュアルに記載されている濃度よりも、少し高めにすることをお勧めします。

 ●抗体ビーズ
  溶出液(最終)中に抗体ビーズが混入しないよう、注意してください。

 ●SDS-PAGE
  ケラチン汚染を極力防ぐため、用時調製(あるいは 質量分析用にストック)した サンプルバッファーの使用を
  お勧めします。





実験の成功を祈ります。




Home nanoLC-MS/MS
による
タンパク質解析
相互作用
タンパク質同定
N末端アミノ酸
配列解析
テクニカル
サポート