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      免疫沈降法   ーーー具体的なプロトコール
               

相互作用するタンパク質を同定するにはどのくらいの量の細胞が必要か?
10 cmシャーレ1枚でできると言う人もいますが、十分余裕をもって解析するためには
15 cm シャーレ(70ー80%コンフレント)2ー4枚培養した細胞の量で行うのが最適です。
ここでは
FLAGタグを付けたXタンパク質の安定発現細胞株を用いた実験方法をご紹介します。

1)  細胞の破砕と分画

A.    回収した細胞(発現させた細胞とコントロール用にベクターのみを発現させたもの、15 cm シャーレ2-4枚)
SHE緩衝液で一度洗い遠心してペレットにします。
これに
  3-4 ml 量のSHE緩衝液を加え、ポッター型ホモジェナイザーを使って細胞を破砕します。ストローク数は
10-20回の間で壊れ具合を見ながら作業します。

B.    破砕した細胞を2-3,000 x gで10分ぐらい遠心して上清と沈殿に分離します。それらを粗細胞質画分と粗核画分
とします。粗核画分の沈殿は
SHE緩衝液を加えて再度けん濁し遠心して一度washします。

C.    粗核画分のペレットに3-4 ml 量のNE緩衝液を加えて、ポッター型ホモジェナイザーか超音波破砕機を使って再度
けん濁して、氷上で10分置いた後、超遠心機か卓上冷却遠心機で
10,000 x g 以上で15分遠心し上清を回収します。
同様に粗細胞質画分も
10,000 x g 以上で15分遠心し上清を回収します。

D.    遠心して回収した細胞質画分と核エキストラクトにそれぞれRNase I (10mg/ml), DNase I (10mg/ml), Benzonase
(50U/ml)
を加えます。
シリンジを使って
0.45mmのタンパク質低吸着性フィルターで濾過します。

SHE緩衝液組成

HEPES pH7.5 (10mM), mannitol (210 mM), sucrose (70 mM), EDTA (1  mM), EGTA (1 mM), spermine (0.15 mM),
spermidine (0.75 mM)

NE緩衝液

 HEPES pH7.5 (50mM), NaCl (0.35 M), NP-40 (0.1%), Protease Inhibitor   cocktail


2) エキストラクトと抗体ビーズのインキュベーション

調製した細胞質エキストラクトと核エキストラクトをそれぞれ1.5mlューブに移し(1-1.5 ml)、抗体ビーズ(ここでは
SigmaANTI-FLAG-M2 agarose 50ul)を加えます。
ローテーターを使って4℃で3ー4時間インキュベーションします。オーバーナイトでのインキュベーションは避けます。


3)            抗体ビーズの洗浄
  A.    インキュベーション後、低速で遠心して(1,000 xg, 2 minぐらいで)細胞質エキストラクトと核エキストラクトを
それぞれを除きます。
ビーズに
0.15 M NaCl 洗浄緩衝液を加え何度かインバートし、低速で遠心後上清を除きます。0.3 M NaCl 洗浄緩衝
液を加えて同様に洗浄します。

B.    0.3 M NaCl 洗浄緩衝液を加えローテーターを使って4℃で10分インキュベーションします。

C.    インキュベーション後、低速で遠心して上清を除きます。PBSを加えて同様に洗浄します。上清を除いたあとに
再度高速遠心して、十分に上清を除きます。


0.15 M NaCl 洗浄緩衝液 HEPES pH7.5 (50mM), NaCl (0.15 M), NP-40 (0.1%)

0.3 M NaCl 洗浄緩衝液 HEPES pH7.5 (50mM), NaCl (0.3 M), NP-40 (0.1%)

4)            ペプチド溶出
抗原ペプチド(ここではFlag peptide (500ug/ml in HEPES buffer)60ul加える)を加え室温で10分間インキュ
ベーションします。
インキュベーション後、高速で遠心して上清を回収します。もう一度回収したペプチド溶出液を遠心して完全に
抗体ビーズを除きます。
回収したペプチド溶出液に
SDS-PAGE用サンプルバッファーを加え、加熱処理してサンプルの調製を終了します。

        免疫沈降のコツ

< 細胞抽出液の調製 >

a) 分画をしょう!

 コンタミを少なくし、微量にしか存在しない相互作用タンパク質を同定するにはtotal cell lysateIPするよりも、
細胞質や粗核、粗ミトコンドリア画分などに分画して
IPすると効果的。細胞や臓器の破砕用バッファーは等張で
膜を保護する組成のものを使う。例えば、次に示す
SHE bufferはポリアミンを添加してマイナスにチャージした
膜表面を安定化し核やミトコンドリアを保護するよう工夫してあります。

 SHE buffer組成

HEPES pH7.5 (10mM), mannitol (210 mM), sucrose (70 mM), EDTA (1  mM), EGTA (1 mM), spermine (0.15 mM),
spermidine (0.75 mM)

b) Filtrationをしょう!

 細胞質や核抽出液などは直接IPしないで、一度フィルターを通してIPする。抽出液調整の過程で、膜がミセル化
したり、細胞の破片などが混在している。遠心して透明になったように見えても脂質のミセルがべたべた
resin
付いてコンタミを引き起こす原因になります。ただし、目的のタンパク質が疎水性だったり、膜結合性のタンパク質
のばあいはフィルターに吸着されないように注意しよう。

< インキュベーション >

a) サンプルにDNase, RNaseを添加しょう!

 コンタミの割合の多くを占めるのがRNA関連、DNA関連のタンパク質。ribosomal proteinRNAスプライシング
因子などの
RNA結合タンパク質、また、Ku70, Ku80, DNA PKcsなどのDNA結合タンパク質がRNADNAによって
IPしたビーズにコンタミしてくる。サンプルにDNase, RNaseを添加してコンタミを防ごう!

b) インキュベーションは4時間以内にしょう! オーバーナイトはだめ!

 抗体・抗原の結合は早くて強い。数時間もすれば抗原は結合しているので、インキュベーション時間は長くても
4時間以内にしょう。オーバーナイトで反応させるのは
in vitroで無差別級タンパク質結合実験をしているようなもの、
誰が勝者になるのか・・・?

< Resinの洗浄 >
a)           まずは情け容赦なく洗浄

 生理的に重要な相互作用タンパク質の結合は立体的に密着するようになっていて、外界の溶媒の影響を
受けづらい。実際、
0.6 MNaClを含む洗浄液で洗浄しても外れないことが多い。そこで、コンタミするタンパク質
を洗い流すために、
0.3~0.5 MNaCl, 0.1-0.5% detergentを含む洗浄液で十分洗浄しょう。

* 時々細胞抽出液を長い時間透析して0.1 Mぐらいの塩濃度にしてからIPする人がいますが、百害あって一利無し
です。新たな無差別級タンパク質結合試合をしています。

b)           バッファーの組成を変えた洗浄液でさらに洗浄

洗浄には塩やdetergentの組成だけではなくバッファーの組成、HEPESからリン酸バッファーやTrisHClからリン酸
バッファーへ変えて洗浄すると効果が上がります。

< サンプルの溶出 SDS-PAGE用サンプルの調製 >
a)  タグのペプチド溶出は少し高めの濃度で、resinはすべて除くことが重要

FLAGタグやMycタグなどのIPのペプチド溶出は少し高めの濃度で行う。マニュアルにある濃度では十分に溶出
されずにサンプルのボリュームが増えるので、2-3倍高めの濃度で容量が増えないように溶出する。
また、
resinは確実に除くことが重要です。

b) SDS-PAGE用のサンプルバッファーは用時調整する。

  SDS-PAGEサンプルバッファー由来のケラチン汚染を防ぐため、ペプチド溶出のサンプルや抗体で直接IPした
resinは用時調製した(あるいはMass解析用にストックした)サンプルバッファーを使ってサンプルを調製する。

これでエキスパートです。実験の成功を祈ります。

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